ねむりと体力
ねむりの必要条件
よきねむりには、体力が必要。
アレレ、これって逆じゃありませんか?
よく寝た結果、体力は回復できるんです。
だって、体力がつきたからねむくなるものですから。
ですから、よきねむりの前提に、「体力」をもってこられてもこまります。
はい、たしかに一理あります。
でもここでは、あえて逆をいきます。
こういう世界もある。
そういう、おはなしです。
「寝がえり」の意味
寝がえりに、どんなイメージをおもちでしょうか。
ゴロン、ゴロン。
それは、元気な小さな子の寝姿です。
おとなになると、そこまで派手ではなくなります。
ピクリ、ピクリ。
ほんのわずか、体をゆらす。
あるいは、力を入れる、力をぬく。
観察すればわかりますが、必ず、おこなっています。
少なくても、十数分に1回、睡眠中ずっと。
寝ているのに、動く。
なぜなんでしょうか。
寝がえりは大切
ねぜ、寝がえりをするのか。
それは、無事に「朝」をむかえるためです。
わたしたちのからだには、つねに重力がはたらいています。
地球の中心に、引っぱられる力です。
ねむると、からだのあちこちが、重力で圧迫されます。
どんなに優秀なフトンをしいていても、です。
後頭部
肩
背中
腕
腰
お尻
モモ
フクラハギ
カカト
上をむいてねむるか、横向きか、すわったままかというような体位でも圧迫部位はかわります。
共通することは、圧迫部位は、血流が乏しくなるということです。
ときには、血流が止まります。
血流が乏しくなるとおこる感覚。
それは「痛み」です。
圧迫がつづくと、痛くなる。
さらに、さきに進みます。
血がゆかないままだと、最後は、その部分は死んでしまいます。
それを「壊死」といいます。
そうしてできる壊死を、「床づれ」「寝かき」といいます。
床ずれ防止機序
わたしたちは、つねに床ずれがおこりうる環境で寝ています。
つまり重力場です。
でも、床ずれはおこりません。
なぜでしょうか。
床ずれ防止機序が、生まれたときから備わっているからです。
では、床ずれ防止機序とは、どんなものでしょうか。
それは、寝ていても「ピクリ」と動くことです。
寝入って、意識が消えていても、ピクリ。
それが「寝がえり」の正体です。
ゴロン、と目立った「寝返り」までゆかなくてもけっこうです。
ピクリ、と圧迫部位が動き、血流がかわればいいだけです。
それをふくめて、「寝返り」といいます。
そうすると「寝返り」の定義がうまれます。
寝返りとは、寝ていても床ずれが生じないように無意識に体が動く機序のことです。
別の表現をすれば、寝ているあいだに、同じ部位に持続的に血流の遮断がおこらないようにする動作のことです。
わたしたちは、寝返り能力をもって、生まれます。
そのおかげで、朝まで熟睡しても、床ずれをおこしません。
全身麻酔は、呼吸筋を止めます。
ですから、それがきいている間は、人工呼吸器が必要です。
同時に、ピクリを動く筋肉も停止させます。
そのため、全身麻酔下で2時間の手術が無事終了。
でも、気づいたら、オシリに床ずれができていた。
このような医療事故が、かつてはありました。
いまは、除圧手術台の進化で、そういうことはなくなりました。
あるいは、強い麻痺が生じて、ピクリができない。
すると、床ずれの危険性が生まれます。
あるいは、強い知覚麻痺で、痛みが感じられない。
そこでも、床ずれの危険性がうまれます。
ピクリは大切、必須
安心してねむるために、ピクリ能力は必須です。
ところが、体力が落ちてしまうと、ピクリの力も弱まります。
ねむっているあいだに、ピクリができない。
すると体は危機をさっして、目をさまさせます。
おい、目をさまして、ピクリをしろ。
そうして、床ずれをおこさせない。
生きる知恵です。
運動のしすぎであまりに疲れてねむっても、ピクリができにくくなります。
からだが、うまく動かないから。
すると、目をさまさせます。
生きるための反応です。
疲れすぎても、熟睡できない一要因。
でも、血のめぐりが悪くなるたびに、目をさまされる。
これって、決して快適じゃありません。
途中覚醒とよばれるものの、ひとつの正体です。
西洋薬に、ねむり薬があります。
別名、睡眠導入剤。
これは、脳ミソに作用して、意識をおとす薬です。
ですから、意識はおちる。
しかし、カラダ自体には、作用しません。
もしもピクリができない状況のひとが、本当に寝入れたらどうなるでしょうか。
そうです、目がさめたら床ずれ。
それじゃこまるので、からだは途中で目をさまさせてくれます。
体力のないひとが、ねむり薬が効きにくい理由のひとつです。
つまり、ピクリの寝がえり体力は、安眠条件の大切なひとつ。
からだの血流に着目
漢方に、意識をおとす薬はありません。
つまり、ねむり薬はない。
意識をおとす生薬は、麻薬や覚醒剤の方に分類されます。
でも、からだの血流がよくなったら、どうでしょうか。
あるいは、あたたまったら、どうでしょうか。
ピクリへの負担がへります。
おおきなピクリピクリをしなくても、すやすや。
結果として、ふかい眠りもできる。
血流系やあたたまり系は、漢方のお得意分野です。
もちろん、不眠の原因は、ピクリだけじゃありません。
カッカ、イライラ、クヨクヨ、メソメソ、ドキドキ、と心の問題があります。
(いがいと多い)
こういうときは、呼吸の漢方が活躍。
ねむれるけど、悪夢が、というときにも有効。
睡眠をつかさどる脳内物質の不足も不眠をまねきます。
とくに、その合成成分であるミネラル不足という栄養問題。
(これも見落とされがち)
こういうときは、まず食事に着目。
オナカの漢方が解決にみちびくことも。
複合的な目が必要な分野です。
でも、まずですね、気持ちのいい睡眠のために、体力をつけよう。
つまりは、寝がえりができる体力。
えー、ミもフタもないおはなしだったでしょうか。
